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ベンチャー企業のすすめ – ベンチャー楽し過ぎヤバ過ぎワロス

インハウスのキャリア

すっかり更新ペースが月一以下になってきました。これまで、大手法律事務所を辞めてベンチャー企業に移転するまでの経緯を語ってきましたが、今回の記事は、タイトル通り、「悪いことは言わん、ベンチャー企業はやめておけ」という話です。

大手法律事務所からの転職 – 待遇的に上場前後の企業が現実的。SOは期待できない。

一口にベンチャーといってもそのステージによって色々と違いますが、大手事務所から転職するにあたって割と現実的なのは、商品・サービスの黒字化もある程度目途が立ち、上場が現実的に見えているレイトステージのベンチャーであることが多いでしょう。それ以前のベンチャーは、法務を内製化するほどの余裕や意識が無いか、待遇面で目線が合わないかだと思います。

そういったレイトステージのベンチャー企業での具体的な待遇の話をすると、甘々見て800-1200万といったレンジではないでしょうか。SO(ストックオプション)に期待してはいけません。絶対貰えない訳ではないものの、上場のタイミングとの関係で出せない場合ときもありますし、貰えたとしても、このステージでの参加だと、せいぜい希望年収との乖離を埋めるための調整額相当(給料数カ月分のボーナス的な位置付け)に収まるのが普通でしょう。

メルカリみたいな例は別かも知れませんが。ベンチャーのインハウスになってSOで一発当てるというのは夢物語だと思います。年収をもっと落として早期のベンチャーに入れば別ですが、そういうステージの企業のインハウス求人が出回っているかは疑問ですし、知り合いの会社とかでない限り難しいのではないでしょうか。最近は、リーガルテックのベンチャーに行くケースなどもありますが。

ベンチャー企業の仕事 – 新規事業への関与は魅力的だが日常業務は普通

普通の企業法務と大差ないと思いますが、私は以下のような仕事をしてました。

A. 新商品・サービスの設計相談

通常、この仕事がベンチャーのインハウスで一番面白いところだと思います。商品・サービス自体も新しく、関連する法律問題も前例の無いことばかりでした。ただ、新しい法律問題への遭遇自体は大手法律事務所でも日常茶飯事なので、当事者としてこれに取り組めることが楽しい所なのだと思います。

B. 一般的な会社法務

1. 契約書のレビューや管理 – 事業に関わる特殊な契約はわずか。外部の弁護士はあまり使わない。

ベンチャー企業でも普通の会社と変わらず、NDA等といった大したことない契約が大半を占めます。ただ、会社のサービスに関する中核的な契約はベンチャー故に前例が無くトリッキーなものであり、まだまだアップデートの必要性が高いものなので、頭も使うし、やりがいのある作業であったと思います。特殊なケースを除いては、外部の弁護士にレビューをお願いする事はありませんでした。ただ、一人法務だと、外部の弁護士に見せるかどうかが自分だけの判断になり、第三者チェックが機能しなくなる恐れがあることには気を付けるようにしていました。

2. 株主総会、取締役会事務(議事録等)や登記等

もとから担当している部署があった事もあり、こうした会社事務関係の業務はあまりやりませんでした。入社してしばらくした後は法務で手伝うようになりましたが、最初は敢えて引き取ることもしませんでした。

3. 人事・労務系

常時相談している外部の社労士がおり、基本的には人事の方で社労士と相談してもらっていました。懲戒や労基法違反などの重大案件であったり、社労士の言ってることが怪しくてセカンドオピニオンが欲しい場合だったりすると、私のところに相談がきました。大抵のことは文献等を参照すれば答えが出ますが、専門外なだけに、地雷を踏まないように慎重に対応してはいました。

C. 官庁対応

規制業種だったので、監督官庁への問い合わせや相談・訪問等をする機会も多くありました。法律事務所にいた時よりも官庁を直接訪問する回数は増えたかも知れません。ベンチャーにいると、確立した取扱いの無い中で事前に官公庁とすり合わせをする重要性が身に染みて分かりますが、同時に、何か問題が起きれば事前の確認なんて無かったのごとく指導・制裁してくる官公庁の容赦無さも学ぶことができます。ベンチャービジネスの適法性なんてのは綱渡りだということは覚悟しておきましょう。

D. 紛争対応

基本的にはカスタマー部門が対応していましたが、エスカレートしてくると法務に相談が来ます。それでも、お客さんに対して自分が表に出るということは基本的にありませんでしたね。ちなみに、B to Cの顧客対応は企業法務事務所でのクライアント対応とは全く違います。とりえあず、社内弁護士が正論振りかざして出ていくのが適切であるケースは稀です。

法的手続に関しては、弁護士会のADRぐらいは法務で対応していましたが(最後は応じなければノーリスクなので)、裁判ともなると、ショボい簡裁事件を除いて外部弁護士を頼っていました。もちろん、関係部署からの聞き取り・面談設定や、外部弁護士の見通しを踏まえた社内説明(安心感の与え方)、意思決定への関与などはインハウスとして色々とやることがありますが。

E. 組織設計

入社して会社がさらに大きくなると、法務部員を増員するかとか、会社の中での組織の位置づけとかについての議論にも参加しました。そんなに議論するほど法務部門は大きくなかったですが、他の部門や全体の議論を眺めているだけでも面白かったです。組織づくりの過程に携わる機会が多いのは、大手企業には無いベンチャーの特徴の一つと言っていいでしょう。

ベンチャーのメリット・デメリット – 面白いけどヤバい

ベンチャーでやっていた仕事は上記の通りですが、さらに突っ込んで、何がよくて何が悪かったのか整理していきます。

A. メリット – 刺激的な毎日と仲間

1. 毎日が刺激的

社会的にも新しいことに取り組んでいる日々は充実感がありますし、トラブルも多く刺激に事欠きませんでした。また、これはインハウス全般に言えることですが、会社のプロダクトを誇れるということは会社勤めの特権だと思いました。法律事務所の弁護士なんて、いくら依頼者との距離が近くても所詮は外様です。SonyにM&Aのアドバイスをしても、外部弁護士は「PS5は俺たちの誇り」なんて思いには決して至らないでしょうし、精神的にビジネスにのめり込むレベルは両者の間に超えられない壁があると思います。

また、会社の規模が大きくなければ、システム、営業、人事、マーケティングといった多様な人達と深く関わることが多いです。専門家集団としての法律事務所内での交流も素晴らしいことだと理解していますが、自分とは違う才能・バックグラウンドを持つ人達と主に仕事をするのは、法律事務所とは違った楽しさがあります。

一点、ベンチャーで特殊なのは、社長をはじめとする経営陣との距離の近さだと思います。ベンチャーの経営陣なんて、たいていネジが二本も三本も外れたぶっ飛んだ人達ばかりです。発想は独特ですし、弁護士への質問や依頼事項も奇想天外なことが多いです。そんな経営陣と頻繁に関われるのはベンチャー特有の環境ですし、今までの常識的なソリューションの提供では満足してもらえないことも多いので、弁護士として何ができるのかを突き詰めるいい経験になると思います。

2. 良いベンチャーの人材はホントに良い

四大は東大卒ハーバード留学みたいなイケ好かない経歴の人間で溢れており、優秀な人は非常に多かったです。ベンチャーの人は、大半の場合、「普通の企業では務まらない」だけなのに「普通の企業はつまらない」と負け惜しみを抜かして無謀な夢を見て集まっている人ばっかりだと思いますが、上手く行っている会社の場合は、「どこでも生き抜いていける人」が集まっています。そういう人達は基本的に、自律的で、どこでも通用するスキルを身に着けており、それでいて野心的なので、一緒に仕事をしていて非常に楽しいです。もちろん、会社による部分も大きいですが、良いベンチャーには思っている以上に一線級の人材が集まっていると思います。

3. ワークライフバランス - 四大に比べりゃ遥かにマシ

ベンチャーなので、みんなそれなりに忙しいし、部署やプロジェクトのタイミングによってはヤバいですが、法務の仕事が四大より忙しくなることはまず無いと思います。福利厚生については期待しない方ほうが良いと思いますが、四大の頃よりワークライフバランスが改善されることは間違いないでしょう。

B. デメリット

1. 何でもやらないといけない – 一人法務は当たり前

業務が細分化・組織化されておらず、法務関係の人員も多くないので、雑多なことも含めて全部自分でやる必要があります。自分の会社では理解のある人が多かったですが、普通の人は、弁護士なら法律のことは何でも知っていると思っている人がいたりするのも扱いが難しいですね。適宜外部の弁護士を使えればいいのですが、外部弁護士を使い過ぎると自分の存在価値が疑われるし、その辺はうまく立ち回る必要があります。

少し違う話になりますが、経営陣からも何か魔法の道具みたいに思われるケースもあります。極端に言えば、社内弁護士がいれば規制問題がぱっと解決するとか、何でもスキームを適法にしてくれるとか、外部弁護士不要になるとか、M&Aがめっちゃ快適になるとか考えているケースです。通常は、それなりの規模のベンチャーであれば既に外部の弁護士も結構使っているので、弁護士に対するある程度の理解はありますが、転職活動を振り返ると、過度な期待がかけられているケースもあると思います。

期待がなければ採用条件も悪くなるはずなので、期待されるのは悪いことではありませんが、採用プロセスのときに先方があまりに前のめりな場合は、入社してから「黒を白にしろ」と日々言われる可能性もあるので、多少警戒したほうがいいと思います。

2. ヤバい

とにかくベンチャーはヤバいです。刺激に事欠かなかったと書きましたが、非日常が日常茶飯事で、ここには書けないようなことも頻繁に起きます。ベンチャーは、トラブルの起こし方もベンチャースピリットに溢れています。「ベンチャー 〇〇」でググれば出てくる珍事は日常茶飯事で、知らない人にとってググれば出てくる記事は誇張に見えるかも知れませんが、ベンチャーにいる人からしたら控えめに見えるくらいです。

自分の会社の話ではありませんが、佐藤由太氏の「ベンチャーキャピタルから個人破産申立されて4,000万円支払った話」(https://note.com/disnism/n/n2fe336df2077)のようなことが実際に起きてしまうのがベンチャー業界だなということが、中に入ってよく分かりました。

3. 弁護士としてのキャリアに及ぼすリスク – ベンチャーは基本濃いグレー

電通の不祥事や三菱電機の過労の問題を見ても分かるように、会社なんて、どこも何かしら法令違反を抱えています。ただ、ベンチャーの場合は存在自体がそもそもグレーだったりします(Uberの白タク論争なんてまさにそれです)。ベンチャーなんて世論や監督官庁が動けばあっという間に違法のレッテルを張られます。そうなった場合、会社の事業自体が違法とされるような会社の社内弁護士はどう評価されるでしょうか?

大企業であれば法務の一部員のせいにされることはまず無いでしょうが、ベンチャーでビジネス全体を所管していた責任者となると、どのように評価されるかは分かりません。転職の際に、「監督官庁に激オコされた会社のインハウス弁護士」と思われる可能性も否定できません。そのため、弁護士としてのキャリアの中で比較的リスクの高い部類であることは意識しておいたほうがいいと思います。

ただ、感覚的には、ベンチャーの場合であっても、会社が不祥事を起こしたことで、転職の段階で社内弁護士としての資質を疑われることは余程でない限り無いと思っています。

ベンチャーは、上手く行っているときは「攻めの法務!!」とか言ってイキってれば良いのですが、守勢に回ると物凄く弱いです。サッカーでいえば、キーパーも含めてセンターラインを越えて攻撃に全員参加しているようなイメージです。そこにセンターバックとして加入したインハウスも攻撃参加を命じられます。そんな状況なので、攻めている間は最強なのですが、カウンター食らってゴール決められると、インハウスは、攻撃参加を命じた監督(社長)から「なんで守らないんだ、守りが必要なら言え」とド詰めされます、そんな世界です。かといって、初めから「世界をひっくり返すためには10点決めないと負け」みたいなムリゲー的な所もあるので、「ディフェンスを固めましょう」とも言いづらいのがベンチャーの難しいところです。

C. 結論 – 悩むなら絶対やめておけ

今回の内容だけだと、メリットもデメリットも相応にあり個人の判断の問題のように思うかも知れませんが、デメリット2.がホントにヤバいです。ですので私は、友人や後輩がベンチャーに行きたいと相談に来たら、「悪いことは言わない、やめておけ」とアドバイスします。とはいえ、私は前の会社に入ったことを微塵も後悔していないので、それでも行きたいということであれば、全力で応援します。人に忠告されて悩むくらいの覚悟ならやめておけということです。

ベンチャー転職に適切な年次

最後に、仮に大手法律事務所からベンチャーに飛び込むことを希望する場合、どれくらいの年次が適切なのか私見を述べておきます。

重要事項を独断で判断できる経験値、サイコパスな社長や外部弁護士とも張り合える戦闘力が必要 – 10年前後の経験が望ましい

業務の内容は割と広く浅くなので、特殊な業界でなければ専門知識は必要ではありません。しかしながら、労務・紛争を初めとする幅広い法的問題、ときには会社の存亡に関わる重要な問題について、外部へ振るか自分で処理するか判断する必要がありますし、外部と折衝するときにも一任前の弁護士として扱われます。例え、相手方が四大のパートナー弁護士であったとしても戦うことを期待されます

そうした点からすると、どんなに最低でも5年くらいはやって、事務所でほぼ独断で案件を進めさせてもらえるくらいの経験を積んでからの方が良いと思います。また、社内のクライアント(というか社長)も非常に癖の強いことが多く、時にはそれとバトルするので、結構な戦闘力が求められます。そう考えると、5年でも短いくらいで、7-10年以上の経験があったほうが良いと思います。規制業種系、金融・不動産など、専門職の濃い業界のポストであれば、より長い経験が好まれますし、海外も絡んでくるのであれば、留学経験があったほうが良いでしょう。

年齢の壁 – 30歳前後が挑戦しやすい

上記の通り、それなりの経験値があったほうが望ましい一方で、あまり年を取ると人生設計上ベンチャーに行くにはリスク取り過ぎになってしまいます。家族のいる方は、ベンチャーへの転職は嫁ブロックも相当に激しいことは覚悟する必要があるでしょう。また、ベンチャー企業は比較的年齢層が若いので、単純にノリについていけなくなります。

30歳前後が比較的挑戦しやすい時期だと思いますが、留学に行く時期やパートナー選考にかかる年齢を考えると、ベンチャー適齢期においてベンチャー転職を検討できる期間はかなり限られているのかなと思います。そういうこともあり、大手法律事務所からベンチャーという選択肢は今でもなかなか候補にあがりにくいのかなと思います。

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