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インハウスのキャリア弁護士のキャリア

いきなりインハウス?あせらずインハウス?やっぱりインハウス?

インハウスのキャリア

タイトルに中身の無さがにじみ出ていますね。本日のテーマは「いきなりインハウス」です。

いきなりインハウスって?

「いきなりインハウス」とは、文字通りいきなりインハウス弁護士になることです。といっても、「今日はステーキが食べたい」みたいなノリで急に思い立ってインハウス弁護士になることではなく、司法修習を終えて、法律事務所での勤務経験を経ることなく企業内弁護士になることを指しています。誰が言い始めたのかは分かりませんが、一般的にはこのような意味で使われていると思います。なお、「いきなりインハウス」という呼称にはこんなご意見もあります

少なくとも従前はそのままインハウスになる人は少なかった訳で、修習からそのまま就任するのが当然の裁判官や検察官と同列に語るのはナンセンスだと思いますが、多少ポップ過ぎる印象があることは否めません。しかし、「居候(イソ弁)」とか「軒先(ノキ弁)」とか普通に言ってしまう業界だし、目くじら立てるほどの表現ではないと思っています。

いきなりインハウスになる理由

なぜ従前は少なかったのに、「いきなりインハウス」になる人が増えてきているのでしょうか。私自身は「いきなりインハウス」の方にTwitterでしかお会いしたことがないので推測にとどまるのですが、主に以下のような事情からではないかと思います。

・インハウス弁護士全体の需要の増加
・法律事務所というキャリアパスにおける経済的環境の悪化
・安定志向の増加、独立志向の弱化

インハウス弁護士全体の需要の増加

以前は「いきなりインハウス」になる人が少なかったのは、そもそもインハウス弁護士という存在が一般的でなく求人も無かったというのは大いにあると思います。近年は、インハウス弁護士の存在も当然になり、企業も修習生向けの求人を出す傾向が出てきたというのが「いきなりインハウス」が増加してきた大きな理由の一つだと思います。

法律事務所における経済的環境の悪化

普通に法律事務所に就職しても昔ほど稼げなくなっているので、相対的に企業勤めが経済的にも魅力的になり、修習後の進路の有力な選択肢として浮上してきたという事情も背景にあると思います。

なお、私は「弁護士になっても食えない」とか「弁護士になっても儲からない」論、というか、そうした状況を非難する風潮にはやや否定的な立場です。もちろん、法曹人口の増加に伴い昔に比べれば厳しい状況になっているとは思いますが、受験生の何割も受かる試験を突破しただけで、毎年何千人もが苦労せずに裕福な暮らしできる方がおかしいです。昔は殿様商売だったのかも知れませんが、あまり能力のない弁護士が儲からないのはある意味仕方のないことですし、特にレッド・オーシャンという状況でもないのかなと(事務所を経営したことも無いくせに)思っています。

とはいえ、普通に法律事務所に勤務し、又は独立しても儲からない弁護士が出てきたのは恐らく事実であって、そういう人達からすれば、企業勤めのほうが経済的にも魅力的に見えるのは当然のことと思います。ちなみに、「インハウス弁護士の待遇自体が向上しているのも理由では?」という人もいるかも知れませんが、中途採用ならともかく「いきなりインハウス」の待遇が向上しているかというと個人的には疑問です。

安定志向の増加、独立志向の弱化

これが最大の原因だと思います。「一定の合格率があるからみんなでロースクールに通って授業を受けて資格を得る」という発想自体が、「合格率の低い難関試験でも俺は突破してやる」という過去の受験生に多かったスタンスに比べて会社員的ですよね。弁護士の大半は個人事業主で、どちらかというと会社勤めが務まらないような人がやる仕事だと思っていますが、今はサラリーマン気質の人が集まりがちな仕組みになっていると思います。そりゃ、サラリーマン気質の人が修習に増えたらサラリーマン(インハウス)になる人が増えて当然という話です。

いきなりインハウスだけど文句ある?

個人の選択ですので「いきなりインハウス」も大いに結構ですが、「いきなりインハウス」になることの難点は主に以下の3つだと思います。

・弁護士としてのスキル習得の困難さ
・給料頭打ち
・何のために弁護士になるのか

弁護士としてのスキル習得の困難さ

もちろん、インハウスだからって成長しないなんてことはありません。ただ、インハウス(というか従来の会社法務部)としてのスキルは身に付くでしょうが、「いきなりインハウス」の業務内容と従来の法務部の業務内容が極端に異なる訳ではないでしょうし、弁護士としての法的な専門知識・スキルは、法律事務所で身につくものとは大きな差があると思います。

仮に法律事務所での勤務経験がある弁護士の上司が面倒を見てくれるとしても、企業内での「弁護士」の育成には限界があるように感じます。それは、数十人単位でインハウス弁護士を有している企業が主に中途ばかりを採用していることからも分かるかと思います。

異なる意見もあろうかと思いますが、やはり、法律事務所での勤務は企業での勤務に比べると戦場なのです。変な例えですが、漫画で「目を閉じたまま飛んでくる矢を避ける」みたいな特訓するシーンがありますよね。法律事務所ではそういう特訓や実戦を通じて回避力を習得しているけど、会社ではそんな場面ないし、そんな特訓を訓練する訳にもいかないので、平和な訓練の中で教え込まざるを得ない、そんなイメージです。とはいえ、平和な場にあっても過去に戦場を潜り抜けた人から学び取れることは多いと思います。少なくとも、弁護士に対する適切な指導が期待できる有資格者がいる環境を選ぶべきですし、有資格者の上司・先輩がいない職場で「いきなりインハウス」になるのはを選ぶのはかなりデンジャラスだと思います。

給料頭打ち

もう一つの欠点は、相当の資金と時間を投下して弁護士になったにも関わらず、給料が普通の会社員と同様の水準で頭打ちになってしまうことです。よく言われていることですが、一般的な日本企業でインハウスになる場合、会社全体の給与テーブルの中に組み込まれます。院卒的な扱いはしてもらえるかも知れませんが、学部新卒に比べてバカ高い給料であることは稀でしょうし、他部署の同年次に比べて高いという可能性も低いと思います(客観的に見ても、弁護士資格を持っているだけの人にそんな価値は無いですし)。

入社後についても、資格があるからといって法務部員が他の部署の社員よりも会社にとってバリューを産み出せるかというと、そう見ている会社は無いと思います。そうなると、他の部署の社員と同じ給与ステップを登っていくしかありません。

何のために弁護士になるのか

上記の通り普通の会社員と大して給料も変わらないとすると、語弊を恐れずにいえば、ロースクールに行く労力と資金を費やして一定のスキルと資格を得たのに、従来の法務部と同様の業務を同様の(or 若干だけ高い)給料でやるのが「いきなりインハウス」ということになります。経済的環境及び安定志向が「いきなりインハウス」の背景と述べましたが、会社員と同じレベルの安定と給料が欲しいのなら、多大な労力と時間をかけて司法試験なんて受けずに、普通に就職活動するか公務員になった方がいいのでは、と思う人もいるでしょう。

近年では法務部に資格が求められるのも当たり前になってきたので、資格を取って従来の法務部と同様の業務をするのは不思議なことではありませんが、そんなに「法務部の仕事」が魅力的ですか?法律が好きであれば一般的には法律事務所の方が専門性は高いし、ビジネスが好きなら会社の事業部門の方がより深くビジネスに関われます(法務部であれば良いとこ取りできるという見方もあるでしょうが)。もちろん、弁護士資格を持っていれば一生「手に職」的なメリットはありますが、「会社員がいいけど資格も持っていたい」と考えてロースクールに行くのは、金と時間に余裕がある人のオプションかなと思います。

とはいえ、ロースクール~修習期間中の経験を通じて、やはり企業勤めがいいと考え「いきなりインハウス」になるという判断は十分あり得ると思います。一般論としては既に述べたとおり、「弁護士」としての付加価値をつけるのは簡単ではないですが、キャリアの組み立て方はいくらでもあり人それぞれですし、インハウスとローファーム間の転職も特段難しいわけではなく、軌道修正も可能でしょう(ただ、安定志向でインハウスになるような方は簡単に転職したくないでしょうけど)。

しかしながら、金と時間に余裕があるとかでなければ、初めから「いきなりインハウス」になるつもりでロースクール・司法試験を目指すのは個人的には微妙だと思いますし、なぜそうしたいと思うのか、一度突き詰めて考えてみても良いのではと思います。

p.s. ロースクールの源流アメリカの事情

ロースクールが会社員的というのであれば、制度の輸入元であるアメリカではどうなってるのか?という疑問が湧いたので、少しだけ調べてみました。そもそも、アメリカのロースクールは学費(及びそのための貸与奨学金)が日本と桁違いなので、取っているリスクを考えると必ずしも「会社員的発想」とは言い難いかも知れませんが。

2013年と少し古いモノですが(たいてい日本はアメリカのトレンドを後追いしてるので参考にはなるでしょう)、ACCというアメリカのインハウス協会っぽい組織のサイトの記事で以下の様に述べられています。

“It is becoming rarer for a company to look at a candidate who’s coming straight from a law firm,” he says. “The desire is to have candidates who already have in-house experience. It’s becoming more of a requirement as opposed to a preference.”

やはり「いきなりインハウス」は米国でも主流では無いように思われます。加えて、

“The best opportunities for law students are in either small start-up organizations or corporations that have a history of direct hiring. Hp (a direct hiring company), recruits law students from the top law schools to become part of their legal department.”

とあり、HP(ヒューレットパッカード)の養成プログラムについて触れられています。転職を繰り返してキャリアアップしていくのが当たり前だからかも知れませんが、start-upが最適な選択肢として挙げられているのは、やはり「いきなりインハウス」の難しさを示しているように思います。

アメリカの弁護士会であるABA(American Bar Association)の学生向けのサイトには、ブログレベルの内容ですがこの様な記事もありました。

In-house counsel job right after graduation? It is possible! – いきなりインハウス?アリよりのアリでしょ!(誤訳) 

同記事で筆者は、「いきなりインハウス」への道としてインターンシップに行くことをおススメしていますが、日本のロースクールではそんな機会も時間も無いというのが現実でしょう。私の勤務先でも、(採用目的ではありませんが)アジア各国で半年の法務インターン生を募集しようとしたのですが、日本では長期のインターンシップは一般的でないこと(&普通に英語しゃべれる人材は期待できないこと)を理由に、日本での募集は諦めました。

日本でも大手法律事務所でのサマーインターンは既に定着していますが、一週間ずつ複数の法律事務所を経験する程度のもので、上澄みの学生の囲い込みのためにやっている感じで、企業がインターン制度まで整えてロースクール生を囲い込みにいくかというと、現時点では考えにくいですね。自分から、興味ある企業にダメ元で頼み込んでみるしかないでしょうか。

さて、記事の話に戻ると、筆者は、インターンシップが難しければ、(前述したHPのように)新人養成プログラムを設けているような会社でないと、「いきなりインハウス」になるのは簡単でないという風に言っています。一方で同記事は、CVS(アメリカのマツキヨ的存在)のゼネカンがポッドキャストで、「企業は、法律事務所でなされるようなトレーニングを自前で有していないので、従来は5年以上の法律事務所経験を経た人を求めていたが、流れが変わってきている」的なことを言っていたことに触れています。

日本でも、法務部にインハウスが集積してくるにつれて、このように自前のインハウス育成プログラムを開始することはあり得るとは思います。とはいえ、既に述べたような給与システムの問題等からすれば、法務部が有資格者を採用するようになって養成プログラムも整備されて法務部のレベルはあがったが、給料は従前の法務部の形態のままである、ということが普通に起こってしまうような気もしています。

司法制度やキャリア形成の方法などの背景事情がかなり違うので日本と一緒には論じられませんが、ロースクール制度及びインハウス弁護士の多さで先を行くアメリカでも、「いきなりインハウス」はあまり一般的なキャリアパスではないという印象を受けました。

最後に、上記のABAの記事で一番ビックリした文章を載せておきます。

“According to the Robert Half 2017 Salary Guide, the national average annual starting salary of an in-house attorney with 0-3 years experience ranges from $87,000 to $114,500, without consideration to bonuses, incentives or other benefits.”

 

最低で87000ドル…だと…!?

(2021のデータでは中央値で95,250ドルとなっています。)

 

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