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社内弁護士の業務法律時事

JILA事変 -司法試験合格者の増加と合格率の上昇を求める理事長声明

社内弁護士の業務
5/31/2022追記:本稿で取り扱っている声明は、2022527日のJILA総会の決議で対外表示を終了することが決定されました。組織内弁護士を代表する(つもり)の組織としては、かなりダサい顛末でしたね。

理事長声明の発出と反対騒動の勃発

先日、JILA(日本組織内弁護士協会)のウェブサイト(https://jila.jp/2021/08/2179/)において、「司法試験合格者の増加と合格率の上昇を求める理事長声明」が発出されました。声明の内容を端的に言うと、司法試験の合格者数を2000人程度、合格率を70%程度にすることを提言するというものです。

この声明が発出された後、JILAの全体メーリス宛に本声明に対する批判を述べて退会を宣言する一般会員が出るという衝撃的な出来事が発生し、これを皮切りに、内部の様々な人から本声明に対する批判が巻き起こっているという、異常な事態に陥っています。既に声明発出からかなり時間が経っていますが、本エントリでは、本件について少し語ってみたいと思います。

JILAとは

まずはじめに、JILAとは、日本組織内弁護士協会という、企業あるいはその他の法律事務所でない各種団体に属して働くいわゆるインハウス弁護士を会員として構成される任意団体であり、その会員数は1,925人(2021年8月31日)と、結構な数のインハウス弁護士が所属しています。その内訳は、役員・管理職クラスから弁護士になりたての新人・若手と多岐にわたりますが、数としては、近年急激に増加している比較的若手の会員が多くなっているのではないかと思います。

5,000円という低廉な年会費でありながら、四大法律事務所やBig4、その他各方面から講師を招いてのセミナー&懇親会、会内外のベテランインハウス弁護士による新人・若手インハウス向けの研修等といった活動も精力的に行っており、今回の様な騒動がなければ、「同じような境遇の人との交流の機会もあるし、とりあえずインハウスなら入会しておけば損は無いと思うよ」と特に迷わずオススメする団体です。但し、上述した会員の構成もあってか、研修やセミナーは比較的若手向けのものが多く、10年近く経験を積んだような弁護士にとっては大きな魅力は無いかも知れません。

声明発出まで

さて、どうして冒頭で述べたような事態に陥っているかというと、声明の内容もさることながら、声明発出の流れがあまりにも会員の存在を軽視したものだったからです(と私は思っています。内容自体にブチギレしている人も少なくありませんが)。本エントリでは声明の内容については議論しませんが、一言でいうと、

裁判で負け筋の当事者側弁護士が作った出来の悪い準備書面みたい

というのが個人的な感想です(機会があれば別エントリで論じてみます)。

声明発出の流れ

本声明の発出に関与している訳ではないので詳細は分からない部分もありますが、私の知る範囲では、今回の声明発出の流れは概ね下記ツイートのような感じだったようです(細かい部分で正確性を欠いているとの指摘も頂いたのですが、大きな誤解を招かないレベルではこんな感じです。)。

…え?

正直、どうやったらこういう流れになるのか全く理解できませんでした。②の時点で、会員の大多数が反対の可能性が相当程度あると考えるのが普通だと思います。それなのに、全会員のアンケートを求める理事会内の意見を押し切ってまでそのまま声明を発出したということは、(1)会員の意見など無視して問題ないと考えたか、(2)この状況にあっても会員の多数が反対とは思わなかったかのどちらかしかないと思います。

(2)については、ヒアリングの対象範囲も限定的であり、これだけで絶対的なことは言えないとはいえ、常識的に考えれば大多数の会員が反対であることは相当の確率で予想される訳で、上記(2)の通り判断したのであれば、ただのバカです。

さすがに、理事の方々は経験豊富な弁護士であり、名の通っている企業でそれなりの地位を有している方も多いので、そんな判断はしていないと思います。そうするであれば、会員の意見がどうであれそんなものは無視して発出しても問題ないと理事会は考えたと受け止めるしかなく、そんなことをすれば、会員が激怒するのは当たり前です。

(なお、このブログの訪問者は十分理解されていると思うので特に触れていませんが、司法試験の合格者数・適正な法曹人口というテーマは、弁護士の中でもその立場や信条によって意見が分かれる繊細な問題なのです。)

会員の反応

激怒する一般会員

こんな流れで本声明が発出されたため、メロス以上に激怒する会員が続々と現れました。全体メーリス宛に本声明に対する批判を述べて退会を宣言する一般会員が現れ、これを皮切りに、内部の様々な人から本声明に対する批判が起きたのは冒頭で述べた通りです。かつてJILAの役員を務めた重鎮レベルからも

・声明発出に賛成した理事は、こういう状況を引き起こすことが全く想定できなかったのか?
・そうだとすれば、その判断力、危機管理能力に疑問を呈さざるを得ない

という趣旨のことまで言われる有様です。

当然ながら、声明の内容の論理性についても色々な人からフルボッコにされています。その上で、理事会への要求として、若干バラバラではありますが、声明を撤回して欲しい、こうした声明発出に至るようなガバナンスを見直して欲しい、どういった議論がなされたのか教えて欲しい、せめて会員の意見を聴取して欲しい、といった声が上がっています。

(なお、声明発出後に理事長からの補足説明も回付され、その後、いくつか批判が出た後に理事長から追加の弁明がなされましたが、よくある政府答弁の様な、答えるようで何も答えてない内容でした。)

反対派の理事達の声

なお、本声明に反対した何名かの理事からは、反対の声をあげた会員の主張と似たような理由で、本件の内容・手続それぞれに反対したことにつき非常に丁寧な説明がなされましたが、賛成派からは、上記の理事長の政府答弁があったのみで、賛成派の理事達が何を考えていたのかは良く分からないままです。

上記のような会員の反応もあり、今後、理事会側も一定の対応を実施することになっています。具体的にどんな形になるかハッキリ分かっていないので詳細を記すのは避けますが、個人的な経験では、こういう事態において民意が反映されるグッドエンドになるのは極めて稀です。

JILAのガバナンス

今回の事件をきっかけに、会員が急激に増加したJILAが、会員の声をどう組織の運営に反映させるかというガバナンスの課題に直面しているということが、何人もの方から指摘されています。理事会における議論の詳細は知らないのでハッキリ言えない部分もありますが、個人的には、本件において浮かびあがった分かりやすい論点としては、①理事長声明の位置づけ、②理事会の構成、③理事長・各理事の資質、あたりかなと思っています。

理事長声明の位置づけ

今回の件だけに着目すれば、そもそもJILAには色々な意見・背景を持つ人がいることにも鑑み、理事長声明の発出は総会決議事項にしてしまうという対応も考えられなくはないですが、理事長声明と通常の対外発信との区別もハッキリしないですし、色々な点であまり現実的で無いように思っています。まあ、本件のせいで、(適切なものであっても)理事長声明を出しづらくなったのは間違いないでしょうね…

理事会の構成

現状、JILAの理事会は、理事長1名及び副理事長5名の他、各委員会や部会の代表を務めている理事、「事務総局」みたいな何を代表してるのか分からない理事を合わせて合計35名くらい(正確に数えるのが面倒なほどに多い)で構成されているようです。

定款を見た限りでは、その構成についての決まり(例:各部会から〇名など)は無いように見えますが、各理事が対等な関係で参加しているのか、それとも、「事務総局付」とか「事務次長」みたいな事務方っぽい人達等の一部の理事は理事長あるいは特定の理事と従属的な関係になっていたりしているのか良く分からない感じです。本声明について、誰が賛成で誰が反対に回ったのかは分かりませんが、仮に、理事会の構成的に理事長あるいは特定の理事が決議に過度な影響力を持つようになっているのであれば、理事会の構造も見直しが必要ではないかと思います。

しかしながら、部会、事務局、委員会、地方支部など色々な役割の人達がおり、どのような形がベストなのかハッキリした答えはありませんし、理事会側に見直しの意思がない中でこれを変えていくというのは至難の業かもしれません。とりあえず、大雑把な印象として、35名は流石に多すぎる気がするし、担当が同じ理事が複数いたり、事務局が何人もいたりと、議決権のバランスという観点からはあまり練り込まれた設計ではないという印象は受けました。

理事長・各理事の資質

理事会の構成などガバナンスの仕組みの改善の余地はあるにしても、一定の有志の人間に運営の大半を委ねざるを得ない任意団体である以上(会員にもっとコミットを求める手もありえなくはないですが)、普通の会社で求められるような立派な監督機関まで用意することもできないですし、最終的に理事長及び各理事それぞれの資質に左右される部分が大きくなるのは今後も避けられないと思います。

仮に理事会の属性的な構成(各理事の所属・役職等)が適切なものになっていたとしても、今の理事をそこに当てはめてみたら、結局、過半数は今回の声明に賛成した人達ということもあり得るわけです。そうであれば、もはや理事長・理事それぞれの資質の問題であって、不満がある人は、次回の選任手続あるいは臨時の解任手続をもって、Noを突き付けるしかないのではと思います。

もはや、理事長はじめとする幹部は、会員の意見は考慮せずに「理事会のかんがえたさいきょうのインハウス」を推し進めるべきというメッセージを割とハッキリ出した訳で、ガバナンス機能の整備にも限界がある以上、それで良いのか悪いのかは、会員がそういう人達を理事長・理事に留めるかどうかで決めるしかないように思います。

もちろん、JILAの在り方はそれで良いと思う会員もいるでしょうが、大多数の会員の意向を無視しているような状況がある限りは、JILAがインハウスローヤーの代表として更なるプレゼンスを獲得していくのには限界が生じてくると思いますし、古くからの会員が幾度となく言及されているような「お友達の集まり」と言われ続けることになるのだと思います。

なお、JILAの在り方に関する会員の方の全体的な意見までは分かりませんが、会員が今の理事会のスタンスを覆してまでJILAを生まれ変わらせるかについては、私は若干懐疑的に見ております。

p.s. 

私自身も本声明については落胆しましたが、JILAの普段の活動を見ている限りでは、会員のためになる活動を懸命に行っているなという印象しかありません。こんなアホな声明一つ出したところで世界が変わる訳でもなく、そんなに騒ぎ立てることでも無いと思う会員も結構いるかも知れません。

私個人としては、現時点では、普段はマトモな活動をしているなと思っていた人達が今回のような声明を出した理由・必要性が全く理解できなくて、「よく分からんけど、理解不能な行動原理に基づいて動いている人達だったら一緒にされたくないし距離を置きたいな…」と考えているところです。頃合いをみて普通に脱退するかも知れませんが、ひとまず様子見です。

まあ、本声明を出した根本的な背景については、①「なんかやりたい」という、オーナー企業でよくある社長の気まぐれならぬ理事長の気まぐれ、②弁護士を増やす政治的な信条のある人達からの圧力とそれと付き合いたい幹部、③それらを特に止める気はないお友達内閣、④「会員なんてインハウスと言ってもほとんど平社員だし、管理職レベルの我々が導くべき」という理事の驕り、⑤「会員なんて運営に全然コミットしてないし、理事だけで決めてしまって何も悪いことはない」という意識、など可能性としては色々考えられるのですが、声明の中身の稚拙さからすると、できれば、一部の人がトチ狂っただけで、あの声明がJILA理事会の真の実力という訳ではないと期待したいところではあります…

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