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留学生活(シカゴ)

LLMの講義の選び方 – LLMの授業に夢見るな、学べる内容は限定的

留学生活(シカゴ)

留学前に抱く理想と現実

LLM留学を検討している皆さん、アメリカのロースクールに行って、最先端の米国法の知識や米国法の根底にある法思想を身に着けて日本の業務に活かそうなんて思ってたりしませんか?

そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。

しかし、現実はそんな甘美なものではなく、ロースクールで学べることは意外と少ないことを本エントリにてお話します。

そもそも米国のローも弁護士になる前の法曹養成機関でしか無い

最初に落ち着いて考えてみてください。ここ、ロースクールですよ?日本のロースクールをイメージすれば分かりやすいですが(私は行ってませんが)、まだ司法試験にも受かってない学生を教育する場所であって、実務の最先端とか教えるのは無理があるに決まってるじゃありませんか。アメリカの教育制度的に法学部的な存在も無いので、JDなんて言ってしまえばタダの純粋未修な訳です。そんな中で、最前線で働く日本の弁護士が扱っている問題より深い内容の授業が行われると思ったらそれは自分達の業務を過小評価し過ぎです。日本のロースクールでも、超専門的な事なんてさらりと紹介はするかもしれないですが本格的には教えないですよね。なお、同じような理由で、どこのLLMに行っても学べる内容は大して変わりません。ハーバードに行くマウント野郎に気後れしないようにしましょう

NY Barと時間の制約 – そもそも受講できる科目数が少ない

留学に行く前はあれもこれも勉強したいという四月病に罹りますし、カリキュラムだけ見るとなかなか魅力的に見えるタイトルの講義が並んでいます。しかしながら、必修科目やNY Barの試験要件との兼ね合いもあり、必要な基礎科目に加えて受講できる数は限られるのが現実です

詰め込めばもう少し受講できるかも知れませんが、受講する科目数は標準で10科目程度で、純粋に自由に選べるのは4-5科目程度といった所でしょう。実際に私が受けた授業は以下の様な感じでした。青色が(確か)NY Barの要件と関係無い授業、赤字が受けて良かった授業です。

基礎講座(事実認定やリーガルライティング)

契約法(民法)

アメリカ法

会社法

法曹倫理

担保取引

ファンド法

銀行法

会計

ファイナンス取引

 

 

米国法(特にビジネスロー)の概念や制度は既に日本に輸入済

M&Aや証券化の実務や変遷を見てもらえば分かるように、ビジネスローの世界では、長年アメリカの猿真似を続けてきた結果、アメリカの実務は既に相当程度日本の実務に溶け込んでいます。そんな中、学生を相手とした基礎的な事項を内容とする授業を受けても、ゴールデンパラシュートとかポイズンピルとか聞きなれた(もはや古い)言葉を聞いておしまいです。アクティビスト等まだまだ日本では歴史の浅いテーマも取り扱ってもらえれば良いですが、深入りすることは期待できないでしょう。まあ、レブロンやパラマウント等の古典に腰を据えて触れてみるのは悪く無いですが、シニアのローヤーに必要なのはその先ですよね。こうした事情から、自分の専門としている分野ほど逆にLLMの講義から学ぶことは少ないと覚悟しておいた方がいいです。

授業の選び方

LLMの授業についてネガティブな論調になってしまいしたが、もちろん、活用次第で色々と学びになる部分はあります。個人的には以下の様な点に着目して選ぶと良いのかなと思います。

まず、リーガルライティングや法曹倫理など、米国弁護士の基礎についてはまじめに勉強した方が良いと思います。シンプルに将来役に立つ場面が多いです。

次に、自分の専門分野の周辺領域です。例えば、M&Aやってるけど独禁について見識を深めたいとか、不動産やってるけど関連する環境法規について勉強してみたいとか。これらは弁護士としての幅を広げるのに役に立ちますし、時間のある留学の時期に手を出してみるのに丁度いいと思います。全く新しい分野に挑戦してみるのも良いですが、今さら感も強く将来役に立つ可能性は高くないと思います。

他には、米国案件に関与する頻度にもよりますが、業務に関わりのある米国法やレギュレーション系です。例えば、紛争チームで日本企業の米国ディスカバリーを助けるケースがあるとかいう場合です。また、FCPAや証券規制など不合理にOverreachingな米国のレギュレーションについて勘所を抑えておくと、日本に戻ってからの業務でも非常に役立つと思います(該当講座があるかは分かりません)。個人的には金融は担保法(UCC9)必須です。

上記に当てはまらない専門分野については、あまり期待せずにおさらいのつもりで受けた方が良いと思います。日本の実務の多くが米国からの輸入品なので、そういう背景だったのかと腑に落ちる場面もあります。危機管理とかいまだ日本で歴史の浅い分野については意外と学ぶことがあるかも知れませんが、そこまでの分野をロースクールが取り扱っているかは分かりません。

なお、ビジネスの講座を開放している大学もありますが、MBAに通うならまだしも、LLM生が受講するような授業の内容は120%日本でもできます。例えばAccounting(簿記)の授業。完全に内容が簿記二級で、日本との違いでハッキリ覚えているのはFIFO(先入先出法)とLIFO(後入先出法)だけ。こんなのTACのテキストがあれば二週間でマスターできます。この授業が役に立ったという人が多かったのは意外でしたが、ビジネス法務って、BSの(文字通り)右も左も分からなくて何年もやってこれるんだなと思いました。

米国のLLMに行く意味は – 第三国に行くべきか?

本エントリのようなことを書いてしまうと、「今さら米国のLLMに行く意味はないの?」という疑問も湧くかも知れません。そういう意見があってもおかしくないですし、ひと昔前に比べると米国のLLMで新たに学ぶことが減っているのは事実だろうと思います。米国LLM帰りのNY州弁護士ニキも今では大量におり、米国のLLMで得る知識による優位性も昔より相対的に小さくなっているでしょう。

そうすると、イギリスやシンガポールなどの第三国に留学するというのは戦略的にはアリだと思います。日本の法律事務所のアジアでのビジネスが拡大しているのは周知のとおりですが、シンガポール、マレーシア、香港、インド、(オーストラリア)など、コモンロー系の国・法域は意外とアジアにも多く、どれもイギリス系です。アジア業務の比率が上昇し、現地事務所に行く可能性も高まってきている中で、イギリス系統の国の法体系を学ぶことは役に立つように思います。ローファームを取り巻く環境の変化も顧みず猫も杓子もアメリカに留学に行き続ける中、他者と差をつけるために留学先として第三国を選ぶのは全然アリだと個人的には思います。あとは、ヨーロッパ旅行と北中米旅行どっちが好きかです。キレイな海がみたいならアメリカです。

変わらぬ超大国アメリカの存在感

しかしながら、GAFAMを見ても分かるように、肝心の日本(及び世界)において米国企業の存在感は相変わらず圧倒的で、M&Aを初めとする国内の取引・投資案件の場面でも、海外のプレイヤーが絡む場合は相変わらず米国系の企業・ファンドがプレイヤーであることが多いと思います(ここでは中国は無視)。また、FCPAやFATCA、ボルカールール、証券規制等を見ても分かるように、米国外にも米国法の射程を伸ばしてくるのも米国の特徴で、日本企業が米国外で悩まされているケースもあることからすると、相変わらずアメリカに目が向いてしまうのも仕方がないことなのでしょうね。

なお、既に日本の資格がある場合、米国の弁護士資格を持っているからと言って米国系企業に採用されやすい訳では無いのは過去記事でも述べたとおりですが、イギリスに留学したからイギリス企業に、アメリカに留学したからアメリカ企業に採用されやすいという訳では無いと思います。とにかく、英語を喋れるサルであれば問題ないでしょう。

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