東京マラソン返金問題と集団訴訟

法律時事

昨日の記事では東京マラソンの返金規約に関する疑問について書きました。ですが、

「仮に規約上は返金が認められるとしても、結局裁判になるとお金も時間もかかるんでしょ?裁判費用が参加料以上になるだろうし。じゃあやっぱり…」

という、法的な手続に訴えたいけど泣き寝入りしかないという、司法アクセスに対する厳しい現実に対するコメントが出てきます。そんな人達のために、被害者を集めて集団訴訟をするという方法が考えられるわけです。

実際に規約上返金が可能かはさておき(規約自体の怪しさについては前回記事をどうぞ)、今回は、集団訴訟の方法と、日本における集団訴訟制度の厳しい現状に触れて行きたいと思います(なお、私は訴訟をやる人間ではありませんのでやや表面的な解説となっています)。

結論としては、①消費者団体に呼び掛けるか、②弁護士に相談してムーブメントを起こしてもらう、③集団訴訟プラットフォームを使ってみる(、④結局自分でやる)、というどれかの方法になるが、どれも手軽ではないよね、という話です。

集団訴訟に適したケース

まず初めに、集団訴訟が使えるケースというのは結構限られていることに触れておきます。なぜらなら、集団訴訟というのは、「まとめて一つの裁判やったほうが効率的だよね」という場合に用いられるもので、これに当てはまるケースがなかなかないからです。

例えば、あるリフォーム業者の手抜き工事で被害を被った消費者が大勢いたとします。こうしたケースで、手抜きの箇所や程度も人それぞれだったりすると、結局、それぞれの家の状況を個別に検討しないといけないので、あまり手続を一つにまとめる意味がありません。また、複雑な状況の事案が含まれていれば、それの審理に時間がかかり他の事案ごと遅れてしまうということにもなりかねません。

ということで、集団訴訟というのは単純に被害者が多いというだけでは活用し難いのですが、本件の返金騒動についてはこの点を気にする必要がほとんどありません。なぜなら、問題となる規約(権利関係)も、参加料を支払ったが大会の中止により返金されないという細かい事実関係も共通しており(それ以上の難しい背景事情もない)、まさにモデルケースのような事案だからです。

集団訴訟の方法

具体的に集団訴訟を起こす方法ですが、すごく大雑把に分類をすると、①消費者裁判手続特例法に基づく日本版クラスアクション、②地道に被害者を集めて原告団を結成する(原始的)集団訴訟に分かれると思います(原始的集団訴訟という用語はありません)。

① 日本版クラスアクション

クラスアクションは米国のドラマなどでよく出てくる単語ですが、「クラス」っていうのは「分類」とか「グループ的」な意味合いですね。ゲームの「クラスチェンジ」的なイメージです。勇者なら勇者のクラスだけ集めて裁判するというのを制度化したものです。

で、日本も2016年にそれっぽい制度を導入したわけですが、これがほとんど活用されていません。理由としては以下のようなものです。

1.  特定消費者適格団体しか訴えを提起できない。

アメリカ(のドラマ)では、そこらへんの筋悪弁護士が「1兆億円払えゴルァ!」とやたら吹っ掛けまくっているイメージですが、この日本版クラスアクション、特定消費者適格団体という選ばれし者しか提起できず、現在ではこちらの消費者庁のURL記載の3団体しか認定されておりません。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/collective_litigation_system/about_qualified_consumer_organization/list_of_specified/

全国にはもう少し多くの「○○消費者保護の会」的な団体が「適格消費者団体」としてあくどい規約の事前差止などの活動をしているのですが、実際の被害に関する日本版クラスアクションとなると、この「特定適格消費者団体」しか手続を行えないのです。

2. 人身損害や慰謝料請求には使えない

さきほど集団訴訟に適したケースについて触れましたが、個人情報の漏洩などというのはまさにその典型です(賠償の相場が一人5,000-1,0000円だったりで個人では裁判費用倒れする点も)。しかしながら、個人情報漏洩の訴訟は、慰謝料請求という形で構成されるのが通常であることから、この制度が使えないという残念なことになっています(企業側からすれば安心極まりないのですが)。なお、今回の参加料返金問題は単なる契約上の問題なので対象です。

こんな事情もあり、使い勝手の悪い制度になっているのですが、各特定消費者適格団体のウェブサイトを見る限りでは、なんと3件も実績があります!(消費者機構日本が裁判中)。もう制度の施行から何年たっているのやら。。

こうした次第で、企業側としてはあまりこのクラスアクションを恐れる必要はない状況になっています。なお、消費者保護団体の名誉のために言っておくと、クラスアクションの数は別として、適格消費者団体は割と積極的に活動しており、法律違反と思われる規約の差止請求なんかは頻繁に企業に届くし、ついこの間もモバゲー規約の違法性について地裁で差止判決を勝ち取っています。

これまでの実績だけ見ると不安・不審に思うかもしれませんが、消費者庁も制度を活用して欲しいでしょうし団体も実績を積みたいはずなので、多くの人がこれらの特定適格消費者団体に相談に行けば、コレキタとアクションを起こしてもらえるかもしれません。

 

②(原始的)集団訴訟

被害者に片っ端から声をかけていき、原告団に参加してもらう方法です。今でもこちらの方法が主流だと思います。問題は、被害者の方にそういう訴訟をしていることに気づいてもらうのにもエネルギーがいるし、別々の弁護士(弁護団)が別々に被害者集めすることになったりするし、被害者各人からいちいち委任状集めないといけなかったりで、とにかく面倒ということですね。また、クラスアクションと違って、勝訴しても、訴訟に参加していない被害者には何の効果もありません。

2018年1月に世間を賑わせたコインチェックのNEM盗難に関する返還請求事件などもそうですが、第一陣・第二陣…という形で、被害者に声をかけ続けながら、一定数集まるごとに順次提訴していくということも起きます(第一陣と第二陣以降はそれぞれ別の訴訟として提起されますが、提起後に一つに併合されて、判決はまとめて出ると思います)。

普通の裁判に比べても面倒な感じですが、昔から弁護士は、こうした手間を乗り越えて、公害訴訟や消費者問題などについて、被害者の権利実現のために尽力してきたものと理解しています。

これをやるには、そういう弁護団が結成されているのを調べるか、あるいは、自分で弁護士に相談に行ってムーブメントを起こしてもらうしかありません。

集団訴訟プラットフォーム

集団訴訟の場合、原告の弁護団が専用ウェブサイトを作成して訴訟への参加を呼び掛けたりしますが、最近ではこちらのenjinというサイト(https://enjin-classaction.com/)のような集団訴訟プラットフォームもあったりします。こうしたサイトを利用してみるのも一つの方法かもしれません。

なお、こうした集団プラットフォームがあまり発展しない一つの理由に、弁護士法上、弁護士を紹介して紹介料を取るということが禁止されているということがあります。そのため、上記で紹介したenjinも無償のサービスと認識しており、いい試みと思いますが、無償なのでいつまで続くのかは分かりません。。

 

P.S. 本人訴訟

本件はあまりにもシンプルなケースなので、普通はおススメしませんが、本人訴訟もできないことはない気がします… 
裁判所に行って用紙をもらって、そこらへんのブログに書いてある規約に関する主張を記載して、払込完了の画面を証拠として添付のうえ提出すれば、手数料1,000円とかでできるし、追加で主張や証拠を提出する必要も低いと思うので、平日に裁判に出席する以外には大きな負担もなく終わるかも知れません。そもそも勝てるとも限りませんが。
本人訴訟って色々とゴタゴタするし、あくまで論点は法的な解釈の話なので、専門家がいた方が望ましくはあるのですが。。

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