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社内弁護士の業務

吉本興業の記者会見にみる社内弁護士の難しさ – 会社のコンプライアンスと社内弁護士の責任

社内弁護士の業務

ひどすぎる吉本興業の記者会見

もはや参院選以上に世間を騒がせてしまっている吉本の闇営業問題。本日行われた記者会見は残念と言って差し支えない内容だったと思います。

当事者があそこまで真剣に受け止めている発言について冗談だったと言ってしまうあたり、この会見も冗談ではないかと思わざるを得ませんでした。冗談を言うような場面ではないですし、いくら冗談を生業とする会社だとしても冗談で言っていいことと悪いことがあります。冗談キツイです

所属する芸人も含めて色々な人から公然と批判される状況が続いている吉本興業ですが、今回の事件に対する直近の対応は、お粗末であったと言わざるを得ないと思います。

反社会的勢力との接触という企業の信頼に致命的な影響を与える問題が疑われ、そうした重大問題について軽率に虚偽の説明を行った宮迫と田村亮との契約を解消するという基本的な方針については、賛否はあれど一企業として合理的な選択肢の一つであったといえるでしょう。しかし、その過程で、パワハラ(あるいは優越的地位の乱用)のような企業の信頼性を貶めることを社長自ら行ってしまうのは本末転倒ですね。会見に至っては絶句です。

社長の会見の内容は見るに堪えないものでしたが、個人的に興味深かったのは冒頭で本件の経緯を説明していた顧問弁護士の小林良太弁護士です。なお、彼は社外取締役でもない普通の取締役ということですので、第三者的なアドバイザーを指す「顧問弁護士」という呼称は不適切と思います。

このような事案において、自分だったら社内弁護士としてどうすべきか改めて考えさせられました。世間で話題になっている、話し方がどうとか顔面偏差値が高いとか本質的でない事情は無視します。

社内弁護士の立ち位置 – 社内弁護士は社長の味方ではない。勘違いすると資格を失うリスクも?

実は社内弁護士の立ち位置は微妙な所があります。社内弁護士が誰の味方かという点について、日本ではそこまで詳細な議論は行われてないと認識していますが、ふわっと言えば「会社の味方」ということになると思います。

この「会社の味方」というのが曲者です。例えば、会社の同僚から「会社の金を使いこんじゃった、タスケテー」と言われても、社内弁護士は会社の味方なので同僚を助けることできず、「弁護士に聞いてくれ、オレ以外のな」と言わざるを得ません。また、同僚は弁護士なら秘密を守ってくれると信じて相談に来たはずなので、その相談内容は原則として秘密にされるべきなのですが、社内弁護士としては、社内の不祥事を認識したなら会社に報告すべき義務もあり、両者の間で板挟みになります。これ、マジで困ります。

上記は分かりやすい例ですが、会社と社員の間の利益が衝突する場面というのは簡単に発生するので、自分も、社内弁護士として会社内での立ち位置には非常に気を付けていますし、同僚が個人的な相談をする気配を少しでも見せたらまずザ・ワールドで時を止めてから自分の立場について警告します。まだ社内弁護士については見たことないですが、利益相反関係は弁護士会の懲戒も厳しい印象があるので、資格に関わることだと思っておいたほうが良いです。

会社の味方≠社長(経営陣)の味方

社内弁護士は会社の味方という前提で話を進めますが、では、社長が間違っていると思ったとき、社内弁護士はどうすればいいのでしょうか。

社内弁護士の義務 – 会社のためには社長が相手でも戦うべし

弁護士職務基本規程上、会社の違法行為については上長に報告するなど適切な措置を取るべしというな指針がありますが、これ以上のことは詳しく書いておらず、あとは依頼者の正当な利益のために働くべしという感じで、各人に丸投げです。

依頼者=会社なので、会社の利益のために働けということになりますが、多くの会社、とりわけ社長の権限が強い会社では、社長が会社という存在に代わって業務を執行している以上、社長と会社を切り分けて考えることが事実上難しく、そういう会社では、社長も「会社=俺」みたいに考えており、公言して憚らないことも多いです。しかしながら、社内弁護士としては、真の依頼者である会社の利益のために動く義務がある以上、社長が間違っていると思えば、弁護士としての倫理に従い堂々と戦わなければなりません。

吉本興業の件でも、小林弁護士=社長の味方でなく、吉本興業という会社の味方でなければならないのです。小林弁護士は取締役法務本部長でもあり、会見にも出席していることから、当然、記者会見で話す内容の準備には関与しているでしょう。内部事情を知らないので軽々に批判することはできませんが、あのような記者会見になってしまったのを見ると、記者会見で話すべき内容について、社内弁護士としての立場からどのような意見を述べたのか、それとも社長に従順な側近に甘んじてしまったのか、興味や疑問が尽きないところです。

法律オタクの弁護士がパワハラ社長と対峙するのは簡単じゃない

現実問題として、世間でいう顧問のような御意見番であればともかく、基本法律オタクでしかない世間知らずの弁護士が、真の会社の利益とは何かという観点から社長ないし経営陣と争うには、相当の経験と人間力が要ります。小林弁護士の44027という登録番号から察するに、弁護士歴10年弱といったところだと思われ、法律の知識経験は十分に身についているでしょうが、経営判断においてパワハラ社長とガチンコできるほど成熟しているかというと、まだ早いような気もします。

社内弁護士の究極の仕事は、会社を辞めること?

極楽とんぼ(死語)の加藤浩次が「今の社長、会長体制が続くのなら吉本興業を辞める」という発言をしたようですね。生半可な覚悟ではできない発言だと思います。

ある会社で起きた従業員クーデター

自分も、似たような事例を把握しています。とある会社で、社長のワンマン政治・パワハラが横行しており、法務も含めて色々な部署が諫めたにも関わらず止まらなかったため、従業員がクーデターを起こして社長交代を要求したというものです。

その会社にも社内弁護士がおり、会社の弁護士としての立場と、一従業員として社長の行動を不適切だと感じる立場に悩んだようですが、結局、従業員の行動に積極的には関わらなかったものの、経営側の改善がなされなかったため、会社に見切りをつけて転職されたそうです。

結局、弁護士としての筋を通すためには、会社にとって重要な事項について、弁護士としてできる限りのことをして最後まで弁護士として賛同できない場合、究極的には辞職するしかないのでしょうか…法律事務所であれば、どうしても意見が合わない依頼者がいれば、その依頼者との関係だけを終了すれば済む話ですが。

社内弁護士は経営やビジネスに近い分、その責任も分担している

社内弁護士の魅力として経営やビジネスに近いところで働けることを挙げる人は多く、そのことに異論はありません。しかしながら、その分、経営判断の責任からも逃れにくく、時として、会社の経営判断に対する社内弁護士としての関与について、法的な是非だけでなく道義的な観点からも厳しい視線を浴びる可能性があること、弁護士倫理を貫き通すにあたって法律事務所とは違う難しさがあることについては、経営判断に近い立場になればなるほど、意識しなければならないと思います。

p.s. テープはじゃんじゃん回しましょう!裁判は証拠がすべて。

なお、吉本興業の社長から宮迫と亮に対して「お前ら、テープ回してるんか」という発言があったようですが、会社と揉める場合には録音をとっておくべきです。どんなに沈痛な面持ちで「こんなひどいことを言われた」と主張しても、証拠無しに裁判でその発言の存在を証明するのは至難の業です。相手が正当な主張をするのなら録音されても問題ない訳ですし、相手が不当な主張をするのなら録音されたって相手方の自業自得です。今時、スマホ一つで簡単に録音できますし、多少気が引けるところがあっても絶対に録音したほうが良いと思います。アメリカのドラマ見てると、「〇〇州では相手方の同意のない録音は違法だぜ、ニヤリ」みたいなシーンに出くわしますが、今のところ日本ではそんあことありませんので。

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