企業法務の利益相反について

法律事務所

先週の記事で利益相反について書きましたが、企業法務系の法律事務所における利益相反について続けて書いてみようと思います。

界隈では「コンフリ」として呼ばれるこの問題ですが、コンフリ又はその可能性により受任を断念するケースは少なくなく、企業法務系の法律事務所(とりわけ大手)にとってはなかなか悩ましい話です。なぜそんなに頻繁にコンフリが発生するかというと、

日本には、まともな法律事務所が少ないから

この一言に尽きると思います。正直な感想として、大規模又は先進的な案件をまともに扱える法律事務所はいまだに四大(or五大)法律事務所と一部の外資くらいしかなく、実際に、大きな案件等では、代理人はこれらの事務所で占められているのが大半だったりします。

ここで例えば、会社の売主代理人がNO&T、買主のファンド代理人がMHMだったりする場面で、買主のファンドが買収資金の融資を受けようとレンダーに交渉をしに行くと、レンダーとしては、N&AかAMTに頼むしかなくなってしまうわけです(●MIさんすいません)。さらにメザニンレンダーまで入ってくると、各関係者の代理人が完全に四大で埋まってしまうわけです。

近年弁護士の数が増加し、企業法務系法律事務所の弁護士数も劇的に増えている訳ですが、正直、重要な案件で頼りになるプレーヤーが増えているという実感はなく、企業法務に移った今でも、重要な案件を四大(ないし特定の外資)以外の法律事務所に依頼するつもりは全くありません。もちろん、他にも個々の先生で素晴らしい方がいるのは承知していますが、実際に手を動かすアソシエイトやパラリーガルの質、マンパワー等を含めた期待値の高さ、法律事務所時代に同僚・相手方としてやりあってきた経験を踏まえると、どうしてもこうした見解になってしまいます。
なお、現在の会社では、トランザクション系の案件は基本的にアジアの法務部で対処しており、ちょっと専門的な話又はマンパワーの必要な話になると、四大か外資系に外注しています。外資の現地法人なのでM&A系の話は基本的にないですが、仮にあれば、本国の法務が本国の外部カウンセル(及びその提携先)と連携して処理することになるでしょう。

話がそれましたが、先のM&Aの事例でいうと、レンダーさんが、いつも使っているということでMHMのファイナンスの先生に相談に行ったりしても、既にコーポレートの弁護士が買主ファンドについているということでダメになってしまうわけです(まず売主・買主がいて、レンダーに話がいくのはいつもその後なので、レンダー(ファイナンス)弁護士のつらいところです)。

また、若手のパートナーが一生懸命営業活動して新規のクライアント・案件を獲得してきても、取引の相手方がシニアパートナーの重要クライアントだったりすると、泣く泣くその案件は手放さざるを得ないわけです。これが割と起きます。

また、利益相反なのかどうかが不明確なケースや、関係者の同意さえ得ればやってもいいのか悩ましいケースも結構あります。極端な話ですが、訴訟のように各当事者が完全に敵対関係にあるような場合には、例え関係者の同意があったとしても(そもそも同意しませんが)、両当事者に同じ法律事務所がついたりはしません。M&Aの売主・買主なんかの場合でも同様でしょう。

一方で、案件の規模も大きくなく、関係者間の激しい対立も予想されないケースでは、関係者の同意を取って進めてしまうこともままあります。同じ当事者で繰り返しやっているアセットファイナンスで、デットの貸主とエクイティの投資家を同じ法律事務所の別の弁護士が代理する(借主の代理人は別)ケースもあれば、もっと極端に、別案件と同条件で進めるといった当事者間の合意のもと、貸主と借主を同じ法律事務所で代理してしまうケースなんかも聞くことあります。

諸外国の事情は知りませんが、日本では、上述したプレイヤーの少なさ、稼げるものなら稼ぎたい弁護士(人間)の欲望、交渉の場でも存在する日本企業の和の文化、弁護士会による監督(あるいは同業者等によるチクリ)の厳しさ/緩さなどといった事情もあって、割と行われていると思います。高潔さが求められる弁護士といっても人間ですし、同業者に対しては良くも悪くも緩いのがこの業界ですからね。なお、偉そうに語っていますが、私は所詮アソシエイトだったので、実際にこうしたケースに直面するパートナーの気苦労は本当の意味では全く分かっていません。

さて、関係者の同意を取って同じ法律事務所が複数の関係者を代理する場合であっても、当然、情報が相手方等に流出したりすることがないよう、いわゆるFirewall規制を敷いてやるわけです(案件フォルダへのアクセス制限や、同部屋のアソシエイトの部屋移動など)。ただまあ、壁に耳あり障子に目ありという言葉もあるわけで、個人的には、完全に信頼していいものとは言いませんけどね。

そんなこんなで、複数の当事者を同じ事務所内で代理してやる案件も珍しくないわけですが、いちアソシエイトとしては、こうした案件は好きではありませんでした。当事者としては、ナアナアでも信頼できるor付き合いのある弁護士にやって欲しいからコンフリがあっても同意するわけですが、そういう案件は、新しいことも少なく単純作業っぽくなることが多いですし、同じ事務所の弁護士に対して、「こんな不合理な主張して頭湧いてんのかゴルァ!」とかコメントぶつけるのも気持ちのいいことではないです(実際にはもう少しオブラートに包んだ言葉遣いです)。
あとは、同じ事務所の人間を相手にすることで手心が加わったりぶつかり合いが弱まる結果、何かを見落としてしまうリスクが怖いです。別の四大と対峙していれば、双方の立場から真剣に検証する結果、ディール全体に致命的な欠陥が生じる可能性も下がりますが(その意味で、相手に手ごわい弁護士がつくと逆に安心なこともあります)、ナアナア案件だと高をくくってしまうことで、変な見落としが生じてしまわないか不安になります。しかも、後から法的問題が発覚すれば、相手方カウンセルへの責任の押し付けもできず、確実に事務所の責任になってしまうので。

結論、クライアントの現実的なニーズもあり、問題のない範囲でのコンフリ案件の受任も否定はしませんが、個人的にはあんまり好きではなかったなぁ(パートナは―はハッピーなのでしょうが)というぼやきです。

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