2020年の決意とゴーン逃亡に関する所感

法律時事

転職したばかりで生活のリズムがつかめなかったこともあり、ずっと更新をサボっていましたが、年も変わったので、心機一転、再び取り留めもないことを執筆していこうと思います。

あまり高い志を掲げても再び挫折するのが目に見えているので、現実的な数字として、一週間に一本くらいは記事を投稿して行きたいなと思います。

さて、年末から世間はゴーン氏出国の話題で盛り上がっていますね。私は刑事事件については門外漢ですが、本件のように正面から刑事手続が話題にされると、色々と思うところもあります。

既に色々な方が語っていますし、この分野に対する私の知恵と経験はあまりにも中途半端で、本件を細かく追いかけていた訳でもないので、ざっくりとしか書きませんが、私の所感は以下の通りです。

① 日本の刑事手続には大きな問題もあるが、ゴーン氏の逃亡を正当化するものではない
② 結果、日本の刑事制度の問題点より、保釈された被告人を逃がさないことにスポットライトが当たっている気がする
③ 日産内で片づけてもらいたかった – 関係者それぞれに問題がある気がするが、責任の大きさに比して、日産の経営陣がスルーされ過ぎ

細かく述べていきます。

①ゴーン氏の逃亡への評価

日本の人質司法とも揶揄される刑事手続に問題があることは否めないですし、本件に関する検察の手法には醜悪な面もあったように思います。だからといって、日本の刑事裁判を全否定する気はなく、長く日本で活動してきた人物が、法を犯してまでこの制度から逃げていいとは思えません。

②本件に伴う刑事司法に関する議論

A. 議論の状況

本件に関して、色々なところで刑事司法について議論されているように思いますが、どちらかというと、「日本の捜査・司法機関によって不当な手続が行われた」という点よりも、「保釈中の被告人が逃げた」という点に(少なくとも国内では)注目が集まっているように思います。

ゴーン氏の会見での「公正な裁判が受けられない」という主張が、現時点では具体性を欠いているように感じられ(あるいは、世間には伝わりにくいものになっており)、妻に会いたかったから出国したという、個人的な願望に力点が置かれているかのように聞こえるのも、その一因ではないでしょうか。

また、レバノンの豪邸が日産名義だとか、結婚式のために会社の負担でヴェルサイユ宮殿を貸し切ったとか、(真否はさておき)話題の内容が、合法であったとしても世間には理解し難い超富裕層の世界の話であり、巨額の費用をかけてプライベートジェットで出国したという明確な事実だけを見ても、我々庶民とゴーン氏はかけ離れた世界に住んでいることは明らかです(日本だけでなく、海外の人にとってもそうでしょう)。そのため、ゴーン氏に起きたことが自分にも起きるとはイメージしづらく、世間の同情を引くことができず、捜査手続の問題よりも保釈・逃亡の事実に焦点があたってしまうのでしょう。

B. 「公正な裁判」-レバノンと日本の比較

ゴーン氏は、日本では公正な裁判が期待できないと言っていますが、ゴーン氏が向かったレバノンは、アメリカを拠点とするNGOであるFreedom Houseのレポートによれば、適正手続(Due Process)の評価は「4段階中最低の1」(日本は4、フランスは3)で、こんなことが書かれています(https://freedomhouse.org/report/freedom-world/2019/lebanon)。

“F2.       Does due process prevail in civil and criminal matters? 1 / 4

 Due process is subject to a number of impediments, including violations of defendants’ right to counsel and extensive use of lengthy pretrial detention.”

筆者簡約:Q:民事及び刑事事件において、適正手続がいきわたっていますか? – 4点中1点

A:適正手続に関しては、被告人の弁護人と相談する権利の侵害や、公判前の長期の拘束の広範な利用といった様々な妨害があります。

レバノンの司法制度は全く知りませんし、論理的には、これと日本の手続が適正かどうかとは関係が無いとしても、上記のような状態のレバノンに退避しながら、「日本では公正な裁判が受けられない」と日本の司法の欠陥を主張しても、「ではなぜレバノン?このような評価を受けているレバノンの制度は良くても、日本の司法制度には従えないの?」と、一定の人は素直に受け止められない気がします。

C. 小括

そんな次第で、今のところ、日本政府に対する外圧を強めることに成功しているようにも見えないことから、本件が、捜査・取調手続といった刑事手続の在り方に強い影響をを与えるとは思えず、「被告人が逃亡しない方法」にスポットライトを当てるに留まってしまうのではないかと思います。

D. 余談-保釈制度の運用

保釈中の被疑者・被告人にGPSを付けるといった話も出ていますが、米国の法律ドラマ、「The Good Wife」では、捜査・公判の対象人物(州検事、のち知事)がGPSを付けられて、家から出たり、GPS装置を外したりすると、即通報されるという措置が取られていました(現実にこんな運用がされているのかは、米国留学していたけれども知りません。。。)。

過剰に監視することには賛同できませんが、現実的な逃亡や罪証隠滅のおそれに照らして、こうした措置をとることでより適切な保釈運用が可能になるのであれば、悪くない措置だと思います。

近年、(過去に比べれば)保釈の運用が(多少)柔軟になったような話も聞きますが、保釈中又は身柄拘束中である被疑者・被告人が逃亡したというニュースをいくつか見たり、本件のようなショッキングなニュースもあると、人間の性として「逃げられるものなら逃げたい」と思う人はいることは認識せざるを得ず、保釈制度の問題も、一筋縄ではいかないなと思います。

③ 本件関係者の評価

さて、想定外の方向に発展し、なんとも収束がつかなくなった本件ですが、関係者みんなに問題があるように思われ、(すでに述べたゴーン除く)それぞれに対する個人的見解は以下の通りです。

検察 – 色々な形で逮捕勾留を繰り返したりと、検察の捜査手続のやり方は、完全にフェアだっただろうとは言い難く、個人的には色々と疑問に感じるところがあります。

裁判所 – 保釈の判断自体にはそこまでの疑問はありませんが、逃亡に16億円かけることのできる人間に対して、保釈金15億円という設定をした裁判所の判断は、批判や疑問を投げかけられても仕方がない気がします。まあ、こんな世界の人間に対する保釈金の相場なんて、普通は分からないですけどね。。

森法相 -「司法の場で無罪を証明すべきだ」(https://www.sankei.com/affairs/news/200109/afr2001090042-n1.html)との発言は、仮に言い間違いであるとの主張を信じたとしても、法相の発言としてはあまりにも残念過ぎます。

弁護団 – 世間の感情としては、弁護人を責めたくなる気持ちも分かりますがが、彼らは彼らの役割を全うしているというのが、法律業務に従事する者として見た冷静な感想ではあります。ただ、弁護団による、

  • 「パスポート携帯の経緯を失念」していたこと
  • ゴーン氏に対して「『公正な裁判』は期待できない」と説明したことを公言し、「彼と同じ財力、人脈そして行動力がある人が同じ経験をしたなら、同じことをしようとする」と述べたこと

という二点については、個人的には否定的な評価をしています。若干、全体の一部を切り取った揚げ足取りな感じもありますが、結果として彼らは、

  • 弁護人に保釈の重要な条件を委ねても、忘れてしまうことがある
  • (本件は特捜事件で特殊だとはしても)保釈に際して、弁護人は、逃亡の恐れはないと主張して保釈を申し立てる一方で、「ゴーン氏のような人であれば逃げようとする」と思いながら「公正な裁判は期待できない」と説明しているかもしれない

という前例を作ってしまったように思え、これらが、彼らの目指す司法制度を実現していく過程において、プラスになるのか疑問に思ったからです。

当時の日産経営陣 – 正直、会社法各種その他の法令上、ゴーンの暴走が仮に事実とすれば、これを止める権限も責任も有していたのに、責務を果たさずにここまで問題を大きくしてしまった日産の当時の経営陣の責任は、もっとクローズアップされてもいいのではないかと思います。その意味では、安倍首相の「日産内で片づけてもらいたかった」との発言には激しく同意します。こんな会社の車には、私は乗りたくありません。

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